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スペースデブリ

すっかり春らしくなってきました。皆さま、いかがお過ごしでしょうか。

 

この季節は毎年花粉症に悩まされますが、それでも、だんだんと日が長くなり、気候が穏やかになるにつれて気分が上がってきます。

 

そのような中、本日は、令和5年度に入り、第1回目の宇宙法研究部会が開催されました。

 

年度が替わり、第1回目の会合ということで、正副部会長の選任決議等といった、手続き的なことも行われましたが、本日の部会のメインは、外部講師によるご講演でした。 

 

本日、お越しいただきました講師は、外務省大臣官房の参事官でいらして、欧州局参事官大使を併任されている中村仁威先生でした。

 

中村先生は、在アメリカ合衆国日本国大使館公使等を歴任されている、バリバリの外交官なのですが、他方で、宇宙法の研究者としても有名で、そのご活躍ぶりは世界中で知られています。

 

そして、本日、中村先生には、 「スペースデブリ生成行為の法的性格」というタイトルで、ご講演をいただきました。

 

スペースデブリ=宇宙ゴミは、軌道上にある不要な人工物体のことをいいます。運用を終えたり故障した人工衛星や爆発や衝突によって発生した破片等です。

 

このようなスペースデブリについては、今後、その排出をいかに抑えていくか、そして、既に無数に散らばっているデブリを如何に回収していくか、といったことが各国に共通した課題となっています。

 

本日は、この問題について、宇宙条約や損害責任条約に関連し、法的責任やその前提となる注意義務の観点から、学会における議論の現状や問題点について、大変理解し易く、明快なお話をいただきました。

 

そのうちの一つを取りあげてみますと、デブリが宇宙空間を漂っていることそれ自体について、そもそも宇宙環境を「汚染」し、「環境損害」が発生しているといえるのか?といった問題意識があることを教えていただきました。

 

デブリが現在利用中の人工衛星等に衝突をして破壊した場合には、そのこと自体が損害にはなりますし、そういうことを懸念して、バックアップの機材を余計に準備する必要が生じたとすれば、その余分なコスト自体を損害と考えることはできるでしょう。

 

他方で、現実にそういう事態が発生せず、単にデブリが宇宙空間を漂っているだけでは、損害が発生していないという捉え方も、論理的にできることになります。

 

このような前提を採りますと、単にデブリを生成させただけでは、そもそも「責任」を負うべきである「損害」が発生していない、という論理も成り立ち得るところですので、デブリに対する責任論を詰めて考える上では、デブリによる「損害」自体をどのように捉えていくべきか、ここを厳密に考える必要があることを学ばせていただきました。

 

デブリの問題については、それを物理的に除去するという、技術的な側面にばかり気を取られていましたが、法律家として考えるべきことは、本日のご講演内容のような、理論的な部分であることを再認識させていただきました。

 

中村先生、本日は大変勉強になる貴重なご講演をありがとうございました。